第2話 悲しきコ−ラ

※写真にマウスを当てますと簡単な説明が出てきます。

ブルキナファソの首都ワガドゥーグー、老人保護施設周辺の風景

 その日は、ブルキナファソの首都ワガドゥーグー市内にある老人保護施設へ調査に行くこととなっていた。「老人保護施設」と聞いていたので、私は身寄りのない老人が住むための老人ホーム的な施設を想像していたが、実際に行ってみると全く違っていた。
 ここに収容されている人たちは身寄りのない老人ではなく、「魔女」であると決めつけられ村から追い出された人たちなのだ。ブルキナファソの主要民族であるモシ族の村では、村内で誰かが亡くなった場合、その死の理由を何かに求めることがあるらしい。そういった村では呪術師が占い(ジュマンジーと呼ばれる)で、その死の原因究明を行うのだそうだ。占いの結果、死の原因が村内に生えている樹木と出れば、その木を切り倒して厄払いをし、その原因が人間と出たらなら、その人を村から追い出すわけである。追い出すだけならまだしも、ひどい場合はその人を殺してしまうこともあるというから恐ろしい。このように不幸にも「魔女」と決めつけられて、村を追い出されてしまう人は、老人のみならず未亡人、障害者などであることが多く、どうやら占いに名を借りた「口減らし」的な一面が大きいようだ。今回、施設を訪れるにあたって、施設内の写真撮影と収容されている人々との会話は固く禁止された。過酷な経験を経てここに収容されている人たちは、外部の人との接触に非常に神経質になっているからだ。そういった人々が収容されているこの施設はワガドゥグー市営とはなっているものの実際はカトリック系の「マリアの御心修道女会」により運営されている。現地で活躍されているシスターの中には日本人もおられ、今回の調査もこの日本人シスターにご案内、ご説明していただいた。その日本人シスターのお話によると、この施設の人々は綿花を紡いで糸にする仕事を与えられており、その仕事で得たお金を食費の一部に当てているとのことだった。自由に外出はできるものの、糸を紡ぐだけの単調な日々が続く中で、人々の唯一の楽しみは施設から支給される「コラの実」なのだそうだ。

「コラの実」 右端は白い実、左端は赤紫の実」、中央二つは赤紫の実を割ったもの

 「コラの実」はコカコーラ、ペプシコーラの語源となったアオギリ科に属する植物の種子で、西アフリカ一円で好まれている嗜好品である。そういえばブルキナファソを訪れる前に滞在していたコートジボアールでも市場の周辺で子供達が栗ほどの大きさのコラの実を売り歩いている風景を見かけた。現地の人たちは生のまま口に入れてゴリゴリと咀嚼し、味が無くなったところで食べかすを吐き出すという食べ方をしていた(飲み込んでしまうという話もあり)。コラの実にはコラチンというカフェインの一種やテオブロミンといった覚醒効果のある成分を含むが、我々が移動に使っていたバスのドライバーに言わせると強壮効果もあるらしい。また、コラの実はコラニン色素により独特の赤紫色を呈しているが、現地で売られていたコラの実の中には赤紫色の実に混じって白い実もよく見かけた。中尾佐助先生の御著書(注1)によると、赤いコラの実と白いコラの実の比率は3:1であり、一遺伝子の場合のメンデルの分離比と合致しているとのことだ。農作物の遺伝学が専門の私には興味深い話であるが、残念ながら今回はそこまでは確認できなかった。

ブルキナファソの農村集落にある穀物庫(本文とは関係ありません) 件の「老人保護施設」での調査の帰りに、町で実際にコラの実を買い求め、ゴリゴリと噛んでみた。その味は、飲みなれたあの褐色の炭酸飲料とはほど遠く、渋くて苦い味しかしなかった。数個買ったコラの実はひと囓りしただけで、残りは前述のドライバー氏にあげてしまった。あの施設の人たちの唯一の楽しみは、かくも渋くて苦いものだったとは。心なしか悲しい味に感じた。
(本稿は日本財団が組織・派遣した「途上国を対象とした実情調査(1998年)」に筆者が参加した際の記録の一部である。)

注1:中尾佐助(1993)農業起源を訪ねる旅 ニジェールからナイルへ(岩波書店同時代ライブラリー)


 食の科学(2003年2月号)掲載分

 Carlosの喰いしごき調査委員会