| 第4話 「路傍のリ・ソース」 (写真にマウスを当てますと簡単な説明が出てきます。) 早朝、コートジボアールの首都ヤムスクロを早出発した我々のバスは次の調査地に向けて西へと走っていた。このあたりは熱帯雨林から湿潤サバンナに移行し始める地域にあたるが、まだまだサバンナの草原は見えず、道の両脇には延々と熱帯樹木の木々がつながっていた。1時時間ほど走ったころで、何の前触れもなくバスが路肩に停まり、ドライバーがエンジンルームを開けてゴソゴソとし始めた。いくら待ってもドライバーは運転席へと戻ってこなかった。 しばらくして「修理に時間がかかるのでしばらく自由行動」との知らせが入り、一行は見知らぬ土地でぶらぶらすることとなった。小さな売店でぬるいコーラを飲む者あり、道端に座り込んでたばこを吸う者あり、各自ゆるゆると流れる時間を過ごした。私はというと道端で売っていたアボカドに舌鼓を打っていた。日本で見るアボカドは黒光りした鰐皮のような果皮だが、ここのアボカドは滑らかな表面で緑から赤のグラデーションが美しい。形も首の方が少し細くなっていて、一見、全く別の果物のように見える。普段食べているものよりネットリとコクがあって美味しかった。アボカドに夢中になっているうちに、ポンコツバスは我々を置きざりにしてどこかに走っていってしまった。道端で修理できる程度の故障ではなかったようで、町の自動車整備工場まで戻るのだそうだ。代車が来るまでこの道端でもうしばらく待たなければならなくなってしまった。 そんな見知らぬ土地の路傍で、少女が大鍋で何かを煮て売っているのを、私はめざとく見つけた。鍋の中にはシチュー状のものが入っており、これをご飯にかけて食べるのだそうだ。このアフリカ風ぶっかけご飯は「リ・ソース」と呼ばれている。コートジボアールの公用語であるフランス語では「ご飯」を「Riz」と表記し、「リ」と発音する、それにソースをかけて食べるので「リ・ソース」である。そもそも、西アフリカは米作地帯であり、我々アジア人が普段食べているのと同じ種の稲(Oryza sativa L.)とは別に、アフリカ稲(O. glaberrima Steud.)と呼ばれる別種の稲も栽培されている。ちなみに、このところ話題になっている「ネリカ米」はコートジボアールにある国際研究所であるWARDA(西アフリカ稲開発協会)で日本の協力により開発された稲で、収量性の高いアジアの稲と乾燥・病気に強いアフリカ稲の種間雑種である。アジアの稲作地帯各地では庶民の食事として「ぶっかけ飯」は根強い人気があるが、リ・ソースもアフリカの稲作地帯で人気の庶民の食事であるようだ。早速、そのリ・ソースを一皿食べてみることにした。皿に盛られたご飯がアフリカ稲なのかどうかはわからなかったが、ぼそぼそしたごく普通の長粒米だった。ソースはトマト味に煮込んであり、ドロリとしているのは豆のペーストかアフリカン納豆ダワダワ(3月号参照)が入っているためだろう。ソースの中には鯖のような魚が入っていた。同国の市場でくるっと丸めた 薫製魚をよく見かけたが、この中に入っている魚もそういったものだろう。少し苦みのあるナスが良く煮えていてトロっとした食感になっている。肉厚のトウガラシは丸ごと入っていて、スプーンで潰してソースに混ぜるとピリッと味にアクセントが付く。これは思ったより美味しい。最初は「また、松島が変なもの食べているよ」と、怪訝そうに遠巻きに見ていた同行者の皆さんも、私が「旨い!旨い!」と、がつついているので、徐々に近寄ってきて味見をしだした。結局、皆さんが手を伸ばしてきたので、もう一皿追加して食べることになった。さて、我々がリ・ソースを食べ終えて満足しているころ、ようやく、代車がやってきた。我々一行は故障したバスより一回り小さいバスに寿司詰めされて再スタートした。美味しいリ・ソースとの出会いがあったからまだ良いが、結局、到着までに、当初の予定の倍以上時間がかかってしまった。しかし、アフリカでこれしきの遅延はごく日常である。実際、我々一行は、この数日後には次の訪問国ブルキナファソで「5分で着く」と説明された隣村まで、なんと5時間もかかってしまうという経験をすることになる。調査団長(注)である曽野綾子日本財団会長に言わせれば「ザッツ、アフリカ。これがアフリカなのよ!」なんだそうだ。 注:途上国を対象とした実情調査(1998年、日本財団が組織・派遣) 食の科学(2003年4月号)掲載分 Carlosの喰いしごき調査委員会 |