第8話 「ドネモア・ピマン」
(写真にマウスを当てますと簡単な説明が出てきます。)

コートジボアールで最も多く見られたハバネロ似のトウガラシ
活気のあるアビジャンの市場で見かけたトウガラシ
 実は筆者、トウガラシの研究を専門としている。本調査団(注1)に参加したときは、一旦、トウガラシ研究から離れていた時期ではあったが、それでも、西アフリカのトウガラシについて興味津々であり、市場などでトウガラシを見かける度に、かじってみたい衝動に駆られていた。
 コートジボアール第一の都市アビジャンの市場では様々なトウガラシが売られていた。ニンジン大の大型辛味品種、かなり大型のジャンボピーマン、豆粒大の乾燥トウガラシなどなど。そんな中で最も多く売られていたのが独特の形(写真参照)の生トウガラシだった。このトウガラシは中南米のハバネロという品種に外見が似ていた。ハバネロは世界で最も辛いトウガラシともいわれ、なんと日本のタカノツメの7倍以上の辛味成分を持つ。しかし、このハバネロ似のトウガラシはかじってみても飛び上がるほど辛くはなかった(それでも十分辛いことは辛いのですが)。
 このような中で、ひときわ風変わりなトウガラシも見つかった。そのトウガラシはヒョロヒョロっと細長く、未熟果実が真っ白なのが特徴的だ。果実は結構しっかりとしていて、折り曲げるとパキッと折れる。折れ口からは生トウガラシ特有の辛そうな匂いがしてくるので、恐る恐るかじってみると・・・意外にも全く辛くなかった。後に調べてみたら、このトウガラシ、日本で見られるような白い花を咲かせるCapsicum annuum種ではなく、薄緑色の花を持つC.frutescens種に属するトウガラシのようだ。この種はかなり辛いトウガラシである場合が多いのだが、このヒョロ長白トウガラシはC.frutescens種でありながら、全く辛くないのだ。トウガラシ研究者としては興味深いトウガラシであることは言うまでもない。
道端で売られているトウガラシ、ナス、オクラなど(写真をクリックしますと大きい写真があらわれます)見慣れた形のトウガラシもあるが、やっぱり写真左端のハバネロ型が多い。

 話が変わって、コートジボアールの隣国ブルキナファソ。5分で隣村に着くと言われて乗り込んだチャーターバスが、もうすでに2時間もサバンナを走り続けている。ようやく集落にさしかかったので休憩にしてもらった。地図を広げて首をかしげる運転手を横目に、その辺りをぶらついていたら、道端でトウガラシを売っている女の子を見つけた。トウガラシを見つけておいて、かじらずにはいられない。かと言って、タダでかじらせてもらうのも彼女に悪いので、少しだけ買うことにした。「ドネモア(下さい)・ピマン(トウガラシ)・アンプ(少し)」と片言も片言の仏語(注2)で話しかけてみた。変な東洋人が下手な仏語で喋っているのは滑稽に見えたらしく、その少女、ケラケラと笑い出した。何度言ってもケラケラと笑うばかりで、一向にトウガラシを包んでくれない。結局、トウガラシを指差し、しつこく言って、やっと買うことが出来たのだが、彼女はその後もずっと笑い続けていた。そういえば、アビジャンのホテルのフロントで、外出から戻り鍵をもらおうとしたとき、格好付けて部屋番号を仏語で言ってみたことがあった。しかし、対応してくれたホテルの女性に発音が悪いと指摘され、正しく発音できるまで鍵を渡してくれなくて困ったことがあった。ちょっとは仏語を勉強してから来るべきだったと後悔した。

注1:途上国を対象とした実情調査(1998年、日本財団が組織・派遣)
注2:西アフリカは仏語が公用語の国が多い

食の科学
(2003年7月号)掲載分

 Carlosの喰いしごき調査委員会