Carlosの喰いしごき調査委員会
マレ−シア 編
第1話「朝カレー」の巻
右:魚と野菜のカレー、左:魚の甘辛煮付けと目玉焼き、テント食堂で.

1.カレーの次の日の朝はカレー
 私の通っていた小学校は集団登校制であったので、毎朝、近所に住む小学生数人と班を組んで学校まで通っていた。その集団登校の同じ班であった近所のMちゃんは、朝、口の周りを黄色くして、玄関から出てくることがしばしばあった。そんなときはいつも、班の友達やその親たちに「昨日の夕食カレーやったんやろ」と言い当てられていた。Mちゃんの家だけではない、夕食がカレーだった日はその翌日の朝食もカレーという家庭が多いはずだ。
 実際に夕食がカレーだった次の朝に、前日の残りのカレーを温め直して食べると、夕食で食べたときより美味しく感じるのである。実は朝にカレーは美味しいのだ。

2.パンにオムレツ
 朝食と言えば、マレーシアのペナン島に滞在中、ホテルでは一度も朝食を食べなかった。ホテルのビュッフェスタイルの朝食は、好きな物を好きなだけ食べれて、それはそれで良いことは良いのだが、結局はパンやオムレツ、ハム、ソーセージと洋食が中心になり、数多く並べられているお料理の中に現地独特の朝食料理はまず無い、まあ、あったとしてもその種類や量が少ない場合がほとんどだ。
 せっかく、マレーシアまできたのだから、マレーシアの現地朝食を食べようではないかと、妻とホテルを飛び出し、現地朝食を求めて通りをブラブラとした。熱帯の島とはいえ朝の散歩は清々しい。よく見ると、結構、朝から屋台や食堂が開いていて現地の人がワシワシと朝食を食べている。そんな風景が目に入ってくると、どんどん「朝食を食べるぞ!」という気分が盛り上がってきてた。

3.肉骨茶
 「マレーシアの朝食と言えば肉骨茶である!」と以前から聞いていたので、本当は、それを食べたかった。肉骨茶は「バクテー」と呼び、豚の骨付き肉(場合によっては鶏の骨付き肉)を漢方薬と一緒に煮込んだスープの様のお料理で、肉をしゃぶりしゃぶり、スープを飯にかけかけ、朝からむさぼり喰うものなのだそうだ。漢方のおかげか、肉々しいはずのスープはあっさりしていて朝食に向いている...とのことである(注1)。
 ところがこの肉骨茶、マレーシアのなかでも中国系住民(注2)によって食べられている朝食のようだ。どうも私の泊まっていたホテルの周辺にはマレー系、インド系のお店が多かったためか、残念ながら肉骨茶の屋台・食堂は見あたらなかった(注3)。

4.中身は鰯カレー
ロティを焼くお兄さん
 肉骨茶の店は無かったものの、現地の皆さんの朝食風景に触発されてかなりの朝食テンションが上がってきていた我々は、ビーチ近くのお店に入った。その店は、現地人客というよりも比較的欧米人観光客が多い店ではあったが、調理場でインド系のお兄さんが忙しく働いており、その厨房から漂う香ばしい香りに誘われて店に引きずり込まれのであった。
 ロティ(注4)と呼ばれるここの名物メニューは薄ーく薄ーく伸ばした小麦粉生地に具材を包んで四角く折り畳み、鉄板で香ばしく焼いたものだ。妻は朝食らしく卵入りを、私はビーチサイドということで、鰯入りをオーダーした。厨房ではお兄さんが器用に生地を伸ばしていて、その小気味よい動きは見ていて飽きない。そうこうしている間に焼き上がったロティが、テーブルに運ばれてきた。表面はパリッと中はフワっと焼き上がった生地は歯ごたえがあって美味しい。妻が卵入りには、
鰯カレー入りのロティ
少し潰れた目玉焼きが包まれていた。一方、私の方には少し煮崩れた鰯肉がふんだんに入ったカレーが包まれていた。この鰯カレー、一緒に煮込まれている野菜の力か、それとも鮮烈なスパイスの力か、はたまた、鰯が新鮮なのか、生臭さが全然なく、辛みも程々で美味い。また、何と言ってもこの鰯カレーとそれを包む薄パンの相性はなんとも絶妙だった。

4.朝カレーは魚カレー
テント食堂の坊や.
テント食堂にて、カレーをよそう妻
魚の甘辛煮付けと目玉焼き、テント食堂で
 さて、話は飛んで、その次の朝、やっぱりマレーシアン・ネイティブ朝食を求めてホテルを出た我々は、昨日よりもホテルに近い食堂に腰を下ろした。テント張りにテーブルを並べただけの簡単な食堂で、料理の入った鍋やバットがいくつか並んでいる。その机の前にはマレー系のオバチャンが座っていた。そのオバチャンの子供だろうか、可愛い坊もその側で椅子に座って、じっと我々を観察していた。身振り手振りで「二人分なんか朝御飯食べさせてよ」とやると、そのオバチャンは即座にお皿にご飯を盛ってくれた。鍋のおかずをそのご飯の上に自分で乗せるシステムのようだ。
 一つの皿には魚の輪切り(筒切り?)を煮付けにしたものと目玉焼きを乗せた。魚の煮付けは甘めで濃い味付け、結構トウガラシが入っていて辛い。これはご飯が進む。 
 もう一つの皿には魚のカレーを乗せた。結構大きな魚の切り身が煮込まれていて、魚の旨味がカレー全体に行き渡っていて、うん、これは旨い。トマトとタマネギ、そして日本で見るオクラに比べて倍以上はあるオオオクラも煮込まれていた。こちらも結構辛口カレーでご飯が進む。
 ご飯が進むというよりかは、魚の激辛煮付けや、魚カレーで発火した口内を、ご飯で鎮火しているといった方がいいかもしれない。ご飯だけではたりないので、甘いミルクティーも動員して消火活動にあたったが、激辛の火の勢いは留まることを知らなかった(注5)。

5.気まずい雰囲気
 観光客が来るよう店でないところで、我々が朝食を食べているのが気になったのか、テント食堂のとなりで車を洗っていたマレー人のお兄ちゃんが、我々のテーブルに座って訛りの強い英語で話しかけてきた。「どこから来たの?えっ、日本人?見えないなぁ。マレー料理は美味しいかい?そりゃ良かった。僕たちゃ毎日食べてるよ!」とかなんとか、楽しい会話をしていたら、彼が洗っていた車を指さし「島の観光ツアーの車なんだ。もし、どこか行きたいところが安くしておくよ」とか何とか言い始めた。その前日にビーチで執拗で強引な物売・勧誘に遭い辟易していたところだったので、その彼に分からないように日本語で「なんだ、結局商売か」と妻につぶやくように言った。彼は日本語が理解できるような感じでは無かったが、どうも、そのセリフを吐いたときの私の表情を読んでしまったらしく、それ以来、じっと黙ってしまった。いままで、ワイワイ楽しい雰囲気で朝食を食べていたのに、なーんだか気まずーい雰囲気になってしまった。ちょうど朝食も食べ終わった頃だったので、ちょっと気まずいままそのお兄ちゃんに別れを告げ、ちょっと口がヒリヒリしたまま、テント食堂を後にした。

6.こんな朝食もたまには
 ペナン島での3回目の朝はちょっと寝坊したのと、割と早めから島の中心地に繰り出したこともあって、朝食(=朝カレー)の恩恵には預かれなかった。朝からカレーなど食べるのは少々刺激的すぎるかも知れないが、ピリッと目を覚ましてくれる朝食はトロピカルな旅の朝にはおあつらえ向きである。こんな朝食もたまには良いだろう。



注1 肉骨茶: 肉骨茶についての情報は主に「東南アジア丸かじり!(根津清著、ダイアモンド社)」等による。
注2 中国系住民: マレーシアは、主に中国系、マレー系、インド系の三つの民族からなる国である。よって、三種類のタイプの料理が楽しめる国でもあるのだ!
注3 見あたらなかった: 結局「インスタント肉骨茶」を買って帰り、我が家で肉を煮込んで食べた。漢方系の独特の匂いが鼻をくすぐり美味しく食べた。噂通り見た目よりあっさりした感じでった。
注4 ロティ: 正確にはこの料理の皮の部分のことをロティと呼び、ロティに具材を包んだ料理は「ムルタバ」というそうだ。ここのお店では「ロティ」と表示してあったと記憶しているので本文中でもロティと書いた。以上ロティ、ムルタバに関しての情報は前述の「東南アジア丸かじり!(根津清著、ダイアモンド社)」の他、「東南アジアガハハ料理ノート(森優子著、晶文社)」による。
 インド系のパンには発酵パンであるナン、非発酵薄焼きパンであるチャパティがあることは知られているが、そもそもロティも非発酵パンの一つのことを指す。非発酵だから焼いても膨らまない。今回食べたのは薄かったが、分厚いロティもインドの地方によってはある。以前、ネパール料理としてジャガイモの入った比較的厚いロティを食べたことがある。今回紹介したロティとは似ても似つかないものだった。
注5 勢いは留まらない: 実はこの朝食後、妻は胃の調子を悪くしてしまった。魚カレーが美味しかったのでついつい沢山食べてしまったそうなのだが、彼女の胃袋にとてっては、ちょっと朝食には辛すぎたらしい。

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