Carlosの喰いしごき調査委員会
マレ−シア 編
第4話「ラクサ求めて三千里」の巻

1.ペナンラクサ
 その日の夕方の飛行機で日本に向けてペナン島を発つことになっていた。マレーシアでやり残したことを片づけるべく、朝からペナン島の中心地であるジョージタウンにやってきた。
 やり残したこととはペナンラクサを食べることである(注1)。ラクサとは麺料理である。マレーシアの首都クアラルンプールあたりでラクサを頼むとココナッツミルク入りのカレーラーメンの様な物が出てくるそうだが、ペナンのラクサはこれとは一味も二味も違うらしい。ペナンラクサは魚(鯖・鰯・鰺等)ダシをトウガラシとタマリンド(注2)で味付けした酸っぱくて辛いスープ、麺は米の白い麺、トッピングは魚やエビ厚揚げ、とちょっと味が想像しがたいものだ(注3)。

2.屋台
アクロバティックな混ぜ方のミルクティバナナロティを焼くお兄さん












ロティの屋台
 ペナンラクサの様な麺料理はだいたいは屋台や街の食堂のメニューである。屋台は我々が宿泊していたホテルの周辺にもあったが、何故かペナンラクサの屋台だけはなかった(注4)。
 ペナン島の屋台といえば、様々な屋台が並ぶガーニードライブというところが有名で、夕方以降にそこに行けば、よりどりみどりのお料理を楽しめるのだそうだ。最近は日本人グルメツアー御一行様が大挙して観光バスで乗り着けているという噂を聞いていたので、異国情緒を楽しみたい我々はホテル周辺の屋台を見てまわることにした。
 ホテル周辺の屋台も色々とあり、どれを食べようか迷いながら歩くのもまた楽しかった。そんな中でもバナナと練乳を包んで鉄板で焼いた薄焼きパン「バナナロティ」とアクロバティックな混ぜ方が吃驚の甘いミルクティの取り合わせが妻のお気に入りだった。

3.海南鶏飯(ハイナンチーハン)
海南鶏飯屋のお姉さん
海南鶏飯、食べかけ写真でスミマセン
 さて、ジョージタウンに繰り出した我々はラクサの屋台(もしくは食堂)を探して街をさまよいはじめていた。
 しばらく歩いたところで、店頭に色良く焼けた鶏をぶら下げている食堂を見つけた。看板には漢字で「海南鶏飯」と書いてある。私が聞いていた「海南鶏飯」はタイの「カオマンガイ」と同じ様な料理で、茹でた(蒸した)鶏とその茹で汁で炊いたご飯のセットだったが、ここお店の「海南鶏飯」は焼いた鶏を乗せているらしい。マラソンの有森選手にちょっと似た感じの美人のお姉さんが作る海南鶏飯を早速食べてみることにした。
 ご飯はやはり鶏のダシで炊かれていてそれだけ食べても美味しい。上に乗った鶏も旨味を濃厚に含んだ味でとても美味しい。東南アジアに来ていつも思うのだが、日本で食べる鶏肉より美味しい様な気がする。添えられたピリ辛のタレに鶏をつけて口に入れ、そのタレが少し付いたご飯を追いかけて口に入れて食べると、これまた美味しい。
 絶品、海南鶏飯にとても満足して、食堂を出て思いだした。我々はラクサを探してるんだった。
4.福建麺(ホッケンミー)とピーナッツケーキ
丼内に二種類の麺が混在する福建麺
二種類のスープの福建麺
ピーナッツケーキを焼くオジサン
 しばらく歩いて中国人街にやってきた。中国茶の専門店で試飲させてもらったり、生鮮市場を覗いたりしていると、大通りに面したある一角に麺料理の屋台を見つけた。福建麺(ホッケンミー)と呼ばれる麺の屋台だった。一杯注文すると、屋台のオジサンがなにやら私に聞いている、マレーシア語を解さない私と英語を解さないオジサンが共に困っていたら、近くにいたオバサンが通訳してくれた。どうやら、麺が二種類あってどちらにするか聞いているようだ。一つは日本で言うちゃんぽん麺のような太くて黄色い麺、もう一つは米の麺だろうか素麺のような細い麺だった。なんと面白いことに二種類の麺を両方入れることもできるとのことであった。二種類の麺が同じ丼の中で混在している麺料理など食べたことも見たことも聞いたことも無い。もちろん、探求心旺盛な私は両方の麺を入れてもらった。麺の上には野菜や肉を炒めたものがトッピングされており、そこからもアッサリしたスープに旨味を放出しているようで、とても美味しかった。二種類の麺が異なる歯ごたえ舌触りを感じさせるが、違和感がない。全く面白い食べ方だ。通訳をしてくれた店のオバチャンとお互い下手くそな英語同志で話をしたのも面白かった。
 福建麺はこの前日にもホテルの近くの食堂で食べた。ここでは麺はちゃんぽん麺の様な太くて黄色い麺一種類だったが、スープが白い半透明のアッサリスープと、赤く染まった激辛スープの二種類だった。ここの福建麺にも野菜を炒めた物が乗っていたが、その他に魚のすり身の団子も乗っていた。
 「黄色い太麺に、炒めた野菜や肉、魚のすり身製品が乗っている。」という点では、長崎のちゃんぽんに似ていると言える(見た目は随分違うが)。そういえば長崎ちゃんぽんも中国福建省の麺料理を明治時代に長崎在住の華僑がアレンジしてできた麺料理である。このマレーシアの福建麺も福建省から渡ってきた麺料理がマレーシア風にアレンジされた物なのだろう。いわばマレーシアの福建麺と長崎ちゃんぽんは兄弟麺なのだ(注5)。
 美味しくいただいた福建麺の屋台の隣では、甘い香りのお菓子を焼いていた。匂いに釣られた妻はもう次の瞬間には一つ買ってかぶりついていた。周りはパリッとしていて中はふんわりとしたホットケーキのような丸いケーキを二つ折りにしてある。折り曲げた内側にはたくさんのクラッシュ・ピーナッツがひっ付いてあって香ばしい。よほど美味しかったのだろう、妻は帰国後もこのピーナッツケーキを、もう一度食べたいとよく話している。
 福建麺とピーナッツケーキにとても満足して中国人街を後にして思い出した。我々はラクサを探してるんだった。
5.カレー麺と粉皮
カレー麺の屋台のお兄さん
カレー麺.j
粉皮?生臭い黒蜜添え
 中国人街から離れ、再びジョージタウンの町中に戻ってきた。スーパーマーケットで、マレーシア料理食材を買いあさり、ホクホク顔で店外に出たら、丁度そこは屋台がいくつか並んだ簡単な屋台街だった。念願のラクサの屋台もあったが残念ながら閉まっている。その隣はカレー麺の屋台で、ちょっと怖そうなお兄さんが黙々と作っていた。おそるおそる一杯頼んでみると、怖い顔のお兄さんはニコッと笑って作り始めた。笑うと別の意味で怖い顔だった。
 恐い顔のお兄さんの作るカレー麺は、ココナッツミルク入りのカレースープに入れられた中華麺だった。ということはクアラルンプールのラクサに近いのかもしれない。丼の上には豚(たぶん?)の血を固めたプリン状の物が乗っている。タイに滞在していたときにも何度か同じ様な血を固めた物が乗った麺料理(注6)を食べた事があるが、今一好きになれない。
 この血生臭いトッピングは別にして、カレースープは大変美味しい。麺にも良く絡んで美味しく食べることができる。日本で「カレーうどん」はうどん屋の定番メニューだが、カレーラーメンはあまり見ることはできない。タイ北部のカレー麺「カウソーイ」(注7)も、このマレーシアのカレー麺も日本人好みの味で美味しい。そもそも、インド人の次ぎにカレーが好きな日本人、中国人よりもラーメンが好きな日本人が何故カレーラーメンを定番メニューとしないのが不思議である。
 屋台街なので、他の屋台もと物色しはじめたら、すぐさま面白い料理を見つけた、半透明の帯状のベロベロした物体に黒いドロっとしたものと赤い味噌のようなものがかかった料理だ。一皿注文してみた。ゴマが上から振りかけられており、揚げネギのような正体不明のトッピングも乗っていた。恐らく、これは中国料理でよく使われる粉皮(板春雨)だろう。赤いのはトウガラシ味噌で、黒いのは黒蜜のようだった。一皿でピリ辛味と甘い黒蜜味を楽しめるし、ベロベロ、フニュフニュした食感も良くとても美味しい...が、なーんかか生臭い。どうも黒蜜が生臭いようだ。何の臭いかは分からないが魚のような生臭い臭いがする。黒蜜が生臭くなかったら絶品の太鼓判を押しても良かったのに...
 とはいうものの、美味しいカレー麺と正体不明のベロベロ料理に満足して、ホテルに戻るバスに乗って思い出した。我々はラクサを探しているんだった。
6.結局
 結局、タイムアップ。ラクサは食べられずに飛行機の時間になってしまった。ホテルから空港に向かうためにピックアップしてもらったワゴンカーの車窓からは、皮肉にも、何軒ものラクサ屋台が見ることができた。どうも時間的、場所的のタイミングが悪かったようだ。
 帰路は夜行便で日本に着くのは翌朝だった。エコノミークラスの狭くて寝苦しい機内で、ペナンラクサを追いかけている夢を見た。夢の中のペナンラクサはUFOのように我々の飛行機から離れていき、空のかなたへと飛んでいってしまった。


注1 やり残したこと: このとき、やり残したこととは私はラクサを食べることと思っていたが、妻は街でのショッピングだと思っていたらしい。ショッピングといえば、ビーチでも町中でもあまり見なかった日本人観光客が免税店には山のように居たのはビックリした。
注2 タマリンド: 学名Tamarindus indica.、マメ科の植物で、莢と豆の間に酸味のあるベットりしたものが詰まっており、熱帯アジアの各国各地域ではこれを料理の酸味付けに使うことが多い。また、酸味に加えて甘味のあるタマリンドもあり、そのまま、おやつに食べることもできる。
注3 ペナンラクサ: ラクサについての情報は主に「東南アジア丸かじり!(根津清著、ダイヤモンド社)」、「東南アジアガハハ料理ノート(森優子著、晶文社)」などによる。
注4 なかった。: 正確に言うと、ラクサの屋台がなかっただけでは無く、肉骨茶の屋台もなかった。第1話参照。
注5 兄弟麺: その後、長崎のちゃんぽんの老舗「四海楼」でのちゃんぽんに関する勉強会で、マレーシアの福建麺と長崎ちゃんぽんの関係をお聞きしたところ、やはりルーツが同じで兄弟的な存在であると言えるとの事であった。長崎ちゃんぽんについては「がまだせ島原編」の第7話を参照されたし!
注6 タイの麺料理: 「カノムチン」のこと。数年前にタイ北部チェンマイ近郊の農村でお正月に村人達と食べた。見た目は素麺のような米で作った麺に、激辛、薄味のたれをかけた麺料理で、その中に例の角切りの豚の血を固めたものが入っていた。豚の血の固めた物のせいか、私には今一好きになれない麺料理だったが、村人との楽しい食事だったので、思わずおかわりをして食べてしまった。
注7 カウソーイ: 私がタイ北部のチェンマイに行ったら必ず食べる麺料理。これは激旨!ココナツカレースープに平べったい中華麺。鶏肉や牛肉などが入っている。その上には何故か揚げた中華麺がトッピングされている。添えられたライムを絞って食べる。また、高菜漬けのような漬け物が必ず添えられていてそれも、また美味しい。